4月からの相続法改正でできた「配偶者居住権」の誤解

配偶者居住権についての誤解

先週、借地にしている土地の売却を考えているという老婦人から相談を受け、お宅に伺って話を聞いた。150坪ほどの敷地で、庭の大きな青石が目立つ、古くはあるが、風格のある立派な和風のお屋敷である。その夫人が、土地の売却相談の話の中でこんなことを言われた。

 

『この古い家は、主人の名義なんだけど、主人は認知症が悪化して、高齢者施設に既に入所している。古い家で、一人で暮らすには広すぎて、庭も大きいので管理がちょっと大変ではあるが、なじみの業者さんも世話してくれるから、私は死ぬまでここで暮らしたい。私が嫁いでからずっと暮らしてきた家だから、愛着もあるし、手放したくない。でも主人がなくなった後の事を考えると、収入のことも不安だから、私が、主人の持つマンション(1棟24戸)を相続して家賃収入を後の暮らしの支えにしたい。

ほかには会計事務所の敷地として貸してる200坪ほどの借地と、この自宅と少しの預金と株があるくらい。だから、私がマンションも自宅も相続すれば、長男長女に分ける資産が少なくなってしまう。かといって私も60代だから、まだかなりの人生の期間がある。家だけを相続したら、この後の暮らしが心配だなぁ・・・・・とずっと悩んでいた。

そしたら先日来、テレビやネットの情報番組でこの4月から、夫が亡くなっても、夫と一緒に暮らしていた配偶者は死ぬまでその家に住めるという「配偶者居住権」という新しい権利が認定されたと言っていた。だから、私がマンションを相続して、娘か息子にこの家を相続させたとしても、私は死ぬまでこの家に住めるということよね。借地は上によそ様の建物が建っている土地だから、今のうちにお金に換えておきたいのよ。株と預金とこの借地を売ったお金があれば、3人で分けやすいから。だから、この主人名義の借地の売却を頼みたいんです。』

という話だった。

この奥様の話に皆さんは、どう思われるだろうか?

 

まず指摘しなければいけないことは、当社への相談の要である土地の売却だが、認知症になったご主人の名義の財産を売ることはできない(これは2018年12月27日のブログで書いているので、そちらをご参照下さい)。仮に家裁に申し立て、成年後見人を立てたとしても売却は難しいと思われる。

しかし、今日書きたいのはその事ではない。

 

この新しく認定された「配偶者居住権」という権利について、この夫人は誤解をしているのである。この権利は配偶者を救済するためにできたものではあるが、何もしなくても配偶者が自動的に手に入る権利だと思ってしまうのは誤解です。

正確にいうと、この新しい権利は「短期配偶者居住権」と「配偶者居住権」と2つの権利が新しく制定されたのであるが、この奥様が言う、死ぬまで亡くなった配偶者と暮らした家に住み続けられる権利というのは「配偶者居住権」の事だ。この権利は2つの方法によってしか得ることはできない。

 

 

配偶者居住権を取得するには

一つは、ご主人が妻に配偶者居住権を相続させる、と遺言で残すこと。

二つ目は、ご主人が亡くなった後に、母親がこの家に住み続ける権利である「配偶者居住権」を相続する事を相続人全員の遺産分割協議で、合意すること。

更に、このいずれかをもって、奥様が「配偶者居住権」を法務局で登記して初めてこの権利の行使が第3者に対してもできるようになる。何もしないで、自動的にこの配偶者居住権という権利を得られるわけではない。

この点を誤解している人は案外多いかもしれない。

 

この奥様が亡くなった時、つまり二次相続の時に、この配偶者居住権は消滅する。父親が亡くなった時の一次相続で、長男か長女がこの自宅を相続していたら、消滅した「配偶者居住権」に相当する相続財産の評価額の分だけ、相続税を払うことなく相続できてしまうという、大きなメリットがある。「配偶者居住権」を設定することは、この4月から始まった、国が認めている節税策と言ってしまってもいいだろう。配偶者以外の相続人は、ぜひ、母親(または父親)にこの権利を相続させるという事を、二次相続のシュミレーションを必ずしながら、検討すべきだと思う。

 

相続法改正で、配偶者が相続後の生活に困らないようにと設けられた、配偶者保護のための権利と喧伝され、がぜん注目を集めているこの「配偶者居住権」。くれぐれも何もしないで手に入れられる権利だと誤解しないようにしてほしい。他の不動産と同じく、遺言か遺産分割協議での合意かがないと得られない権利で、その権利行使には登記が必要なのだ。

 

前述の奥様の場合は、ご主人がもう遺言を残せない状態なので、生前の相続対策というのはできることはあまりない。ご主人がお元気な内ならば、このマンションについても家族信託を利用することで、父親から例えば長男に委託して所有権を長男に移し、そこからの収益は奥様を受益者として奥様に入るように手配し、奥様が亡くなった後は、長男がそのままマンションは相続するという取り決めができます。もちろん、借地を売却してお金に換えておくこともできます。

しかし、ご主人が認知症になってしまった以上、このような相続の生前対策はあきらめるしかないですね。

 

参考までに、この4月から新しく相続することができるようになった「配偶者居住権」をどう評価するのかの計算をご紹介しておきましょう。父親の残した自宅という財産を、どう分けるか考えるときに、この計算ができないと、全体の遺産分割を考えることはできないでしょうから。相続対策を考える上でご参考になると思うので、ぜひやってみてください。

 

配偶者居住権の計算方法

※建物と土地は別々に計算いたします。

<建物>

計算式:配偶者居住権評価額=建物の評価額 - 配偶者居住権の設定された建物の評価額

 

この計算式を見て、算数に強い方はすぐにわかると思うのですが、築30年40年たっているという家の評価額はゼロになります。とても古いという場合、残存耐用年数がない家ですから。その場合、配偶者居住権としての建物の評価額は相続税評価額そのものになります。

 

数字のきちんと入る具体例で計算した方が分かり易いと思うので、具体例でやってみましょう

 

こんなケースで計算してみます

配偶者:妻  配偶者の年齢:69歳  建物構造:木造  築年数:11年

建物の相続税評価額:900万円  配偶者居住権の設定期間:終身➡20年

土地の相続税評価額:1000万円

 

  • 木造住宅の耐用年数は、法定償却年数22年の1.5倍33年 築11年だから残存耐用年数は22年
  • 配偶者居住権を終身で設定する場合の存続年数は、妻の平均余命から数字を引いてきます。20年。(H29年平均余命表から)。もちろん終身でなく5年とか10年とか任意に設定することも可能です。
  • 新しい法定利率は3%で、20年の複利現価率は0.554(これもネットで検索すればすぐに出てきます)

まずは、配偶者居住権の設定された建物の評価額は

 

=900万× (22-20)/22     × 0.554 =453,272≒453,000円 (千円未満切捨)

 

建物の配偶者居住権評価額=9,000,000円-453,000円=8,547,000円

 

 

<土地>

計算式:土地の配偶者居住権評価額=土地の相続税評価額-配偶者居住権設定された土地の評価額

 

これも上記の要件の具体例で計算してみましょう。

 =10,000,000円 × 0.554=5,540,000円

従って 土地の配偶者居住権の評価額=10,000,000円-5,540,000=4,460,000円

土地はあっけなく簡単ですね。

配偶者居住権評価額=8,547,000円+4,460,000円=13,007,000

 

自宅の相続税評価額=土地1000万円+建物900万円=1900万円の自宅を20年間住み続けることのできる配偶者居住権の評価額は、13,007,000という事です。

計算は難しくはないのですが、建物の耐用年数複利現価率平均余命など馴染みの薄い統計データが必要となりますので、間違えないように、必ず税理士など専門家と一緒に計算をして下さい。

この配偶者居住権を使った遺産分割のご相談について、分かりづらいという方は不動産部の平までご連絡ください。ではまた。